溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
品の良い老夫婦と話していてた花音は、昌磨が出てきたことに気がついた。
「あれ? 課長」
昌磨はあのグランドピアノの椅子に座る。
ピアノを前にしたその顔を見たとき、おや? と思ったのだが、なにが、おや、なのか、そのときはわからなかった。
「……え、ジャズだ。
意外」
昌磨のあの長い指を、ハンドルを握っているときも、書類を渡してくれるときも、電車で助けてくれたときも、格好いいと思ったが。
今が一番綺麗かも。
花音はうっとりと昌磨の指を見つめていた。
弾き終わってしばらくして、昌磨がやってきた。
「課長っ。
素晴らしかったですっ」
と言い、昌磨の手を握る。
「大感激ですっ」
昌磨はつかまれた己れの手を見下ろし、
「お前、だいぶ酔ってるだろ」
と言ってきた。
まあ、シラフでは手を握れないかな、と少し冷静な自分が思っていた。
「僕、五杯は運びましたよ」
と通りすがりに良が言う。
「あの間にか?」
と振り向きながら、昌磨が言っていた。