溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
「でも、課長、声も素敵です。
 歌は歌わないんですか?」

「今、課長じゃない。
 歌も歌わない」

 そう素っ気なく言ってみたが、
「カンツォオーネとか似合いそうですけど」
と言ってくる。

「ゴンドラにでも乗れというのか」

 しまった。
 イタリアを引きずってしまった。

 話をそらさなければ、と思う。

「でも、課長」

「今、課長じゃない」
と話題をそちらにそらすように、少し強めに言うと、

「……し、昌磨さん」
 自分で言っておいて、花音は赤くなる。

 そのままうつむいた。

 その様がちょっとおかしくて、なんとなく呼びかけてみる。

「花音」

「は、はいっ」

 ……本当に名前を呼ぶとビクつくな。

「花音」

「はいっ。

 って、かちょ……昌磨さん、面白がってますねっ」

 ははは、と笑いながら、二人で線路沿いを歩いた。



< 50 / 232 >

この作品をシェア

pagetop