主任は私を逃がさない

 彼に触られている肩から、寒気とも何とも表現しがたいゾワッとしたものが伝わってくる。

 松本さんの酔って充血した目がドロッと濁っていて気持ち悪い。

 その目で舐めるように頭のてっぺんから足の先まで眺められて、すごく不快だ。

 この人こんなに正々堂々と馴れ馴れしい態度だけど、本当に自分が悪い事をしたとは思っていないのかしら?

 罪悪感は欠片も無いの? 微塵も? まったく?


 私はスッと一歩後ろに下がり、松本さんの手から逃れた。

 ここで会ったが百年目。この際はっきり抗議をしてやろうと口を開いたら、松本さんに先制攻撃されてしまった。


「すげえ魅力的だよ、陽菜ちゃん。またキミに夢中になってしまいそうだ」


 ……無いな。罪悪感。微塵も。

 本気で自分のした事を悪い事だと思っていないんだ。

 いるのね、世の中にはこういった種類の人間が。例えば溝口次長とか。

 言うだけ時間のムダだわこれは。


 すっかり気が抜けてしまった私は横を向き、開いた口から微かに溜め息をついて鬱憤を逃した。

 するとそれをどう受け取ったものか、松本さんが嬉しそうな顔を近づけてくる。

 お酒くさい匂いに思わず顔を顰めた私に向かって、彼は言った。


「そんな物憂げな表情で俺を誘わないで……。我慢できなくなる」

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