主任は私を逃がさない

「ああ、やっぱり陽菜ちゃんだ! ビックリしたよ!」


 目の前に立っているのはまさしく、私のバージンを奪い去ったあの松本さんだった。

 いや、ビックリしたのはこっちです! まさか因縁の相手とこんな所で相まみえるなんて!

 でも考えてみれば松本さんは、担当店が変わっただけで転勤したわけでも何でもない。

 あまりにも衝撃的な別れだったせいでもう永遠に会えないように思い込んでいたけど、いくらでもこの街で遭遇する可能性はあるんだった。

 まさか居酒屋のトイレ前でバッタリ鉢合わせなんて事態は、夢にも思わなかったけど。


「会えて嬉しいよ。ちょっと見ない間に変わっちゃったね。すごく綺麗になった」


 ……あなたはちっとも変わってないですね。

『会えて嬉しい』なんて悪びれもせず言える、その神経部分が。

 そんな言葉をグッと飲み込む私に、松本さんは微笑みながら近寄ってくる。

 そして私の肩に手を乗せて、店内のざわめきに紛れながらそっと耳元に囁いた。


「ひょっとして、俺との一夜が陽菜ちゃんを変えてしまったのかな? だとしたらとても光栄だよ」


 ……どうしよう。

 こいつ殴っていいですか?

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