主任は私を逃がさない

 なんだろう。今ちょっと幻聴が聞こえた気がする。

 希望的観測が強すぎたのかしら。すごく……すごく自分に都合のいい言葉が聞こえてきたんだけれど。


「陽菜、お前いま、俺の事が好きって言わなかったか?」

 やたらと思い詰めた表情の史郎くんが顔をグッと接近させてきた。

 私は反射的に顎を引きながら返事に詰まってしまう。

 そんな、わざわざトドメを刺すかのように念を押して確認しないで欲しい。一回言うだけでも充分ストレスなのに。


「どうなんだよ? まさか言ったのか? 好きって言ったのか?」

「し、史郎くんこそ今なんて言ったの? よく聞こえなかったけど」

「俺は……」


 史郎くんはゴクリと喉を鳴らした後、決死の覚悟を決めた戦士のような目になった。


「お前に迷惑に思われているのは百も承知だ。でもどうしても諦められない。だから一生かけて俺のことを好きにさせてみせるし、絶対に幸せにすると約束する」

「は?」

「陽菜、心から愛しているんだ。俺と結婚してくれ」


 …………。


「は??」

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