主任は私を逃がさない

 ここで私が、だらしなくお口ポカン状態になってしまったとしても、誰が私を責められようか。

 穴が開くほど史郎くんを見つめても、何がなにやら、事情が全く理解できない。

 なにこれ? どういう展開? 心から愛してる?

 ……って、誰が? 何を? どうして? どうやって?

 5W1Hの疑問で一杯の頭で、私は彼の言葉をオウムのように聞き返した。


「史郎くん、私に結婚してくれって言ったの?」

「ああ、言った。俺は陽菜を愛してる。だからお前にプロポーズしてるんだ」


 私はますます混乱してしまった。

 目の前の史郎くんは、まるで命がけの真剣勝負にでも挑んでいるようだ。

 私が昔から良く知っている、少年の頃から変わらない一点の曇りもない目で。

 この目をひと目見ればすぐ分かる。史郎くんは嘘も冗談も言っていない。

 ……じゃあ……。


「じゃあ、つまり史郎くんが私を好きってこと?」

「“好き”じゃない。“愛してる”。陽菜もとっくに気付いていたんだろ? 俺の気持ちに」

「いや、知らないけど」

「……あ?」

「気付いてなかったけど。全然」

「…………」


 真剣そのものだった彼の表情が、あっという間に脱力して呆けていく。

 やがて半開きになった唇がヒクヒク痙攣し始めた。

「なんでだよ!?」

 史郎くんが目を剥いて叫んだ。

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