主任は私を逃がさない

 からかわれた事が悔しくて、精いっぱい怖い顔して睨み返してやった。


「そんな顔をしてみせても、可愛いだけでちっとも怖くない」

「…………」


 蜜が絡まるような甘い低音ボイスと表情に、返り討ちにされてしまった……。


 微笑む彼の瞳は黒く艶めき、大人の余裕に満ちていて、見惚れてしまうほど魅惑的だ。

 そんな顔を見せられたら、怒るどころか頬の熱さも胸のざわめきも増すばかりだ。

 ……やばい。これは一方的に攻められている。

 史郎くん相手に異性を意識することなんて、絶対ないと思っていたのに。


「お待たせしました」

 ちょうどその時、注文していた料理をお店のおばさんが運んできてくれた。

 計ったようなグッドタイミングに心の底からホッとする。

 ナイスアシスト、おばさん。助かりました。


「ありがとう、おばさん。今日も美味そうだね。さあ陽菜、いただこう」


 顔なじみらしい挨拶をおばさんと交わして、史郎くんが勧めてくれる。

 目の前に並べられた食器には、白いご飯と、お味噌汁と、カレイの焼き魚。それに小鉢の酢の物と、お漬物もついている。

 またまた失礼ながら、意外にもそれなりにちゃんとした和食器が使われていて驚いた。

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