主任は私を逃がさない
「いただきます」
食事前の挨拶をしながら私は和食のマナーを思い出していた。
ええと、確か和食は一番最初に汁物をひと口、いただくのよね。
まずはお椀を両手で持って、それから右手を離して箸を持ち上げて。
お椀を持った手の薬指と小指の間に箸を挟めて安定させて、右手を右方向に沿わせて移動する。
そして正しく箸を持ったら左手から箸を離して、汁を一回だけ掻き回して、飲む。
だったよね?
友恵と一緒に練習した手順を忠実に再現して、緊張しながらコクンとお味噌汁を飲み込んだ。
そして……目を丸くした。
「これ、美味しい」
大豆を発酵させた味噌独特の風味が、汁の中にしっかりと生きている。
具の豆腐もすごい。絹ごしなのに、こんなに豆の風味が濃く残ってるなんて。
しかも大豆同士ケンカしないで協調し合ってる。うわ、ほんとに美味しい。
温かいご飯の強い甘みと粘り気が、またお味噌汁によく合うこと。
白身魚は身が厚くホコホコしていて、噛むたびに魚特有の優しい旨味と、焼けた香ばしさが口いっぱいに広がる。
キュウリとワカメの酢の物は、サッパリした酸味とそれを受ける甘みのバランスが絶妙。
白ごまの香味も立派に貢献している。
お漬物の塩加減も漬け加減もバッチリ好み。このパリパリした歯ごたえがもう、快感。