主任は私を逃がさない

 溝口次長の言わんとしている事がようやく理解できた私は、伝票をひったくるように受け取って目を凝らした。

 これ、キャンペーン開始日よりも前の日付けになってる!

 これじゃ次長のキャンペーンセールスポイントに加算されない!

 そうなった原因に身に覚えがある私はすっかり青ざめ、手の平にジトッと嫌な汗が噴き出るのを感じた。


「今日以降の日付けで計上してもらうから、メーカーに仮伝票で出荷してもらうように手配しろって言ったはずだ」

「す、すみません。先方に伝えそびれました……」

「メーカーはとっくにキャンペーン前の売り上げを締めて請求書を作成したはずだから、もう操作できない」


 溝口次長の釣り目がちの目が半開きになり、私をジロッとねめつける。

 目付きも声も明らかに鋭い棘があり、かなり怒っている様子だった。

 それもそのはず。キャンペーンは全国の営業マンの熾烈な戦いの場でもあるんだ。

 ランキング上位者は表彰され、報奨金やら海外旅行接待やら、メーカーから下にも置かない歓待を受ける。

 全国的にも名前が知られて、業界各社から一目置かれる存在になるし。

 その栄誉を得るために、営業マンはキャンペーン期間中はポイント獲得に躍起になる。

 うちの父親も何度か表彰された事があるから、私も事情はよく知っていた。

< 89 / 142 >

この作品をシェア

pagetop