グリッタリング・グリーン
「直帰にすれば、遅めに打ち合わせ設定して、流れで一緒に夕飯食ったりできるのに」
「原稿をお預かりしたまま、直帰なんてできませんよ」
まじめ、と葉さんが笑いながら、伝票を手に席を立った。
最近葉さんは、よく外での打ち合わせを指定する。
デートっぽいじゃん、と理由を説明していたけれど。
たぶん、CFのほうの制作が佳境で、イラストの仕事の時くらい、気分を切り替えたいんだと思う。
季節は夏に向かって進んでる。
彼がなんとなく、ぴりぴりとした緊張をまといはじめたのを感じた。
オフィスの電話が鳴っていた。
誰も席にいないわけじゃないけれど、みんな仕事に集中していて、聞こえていない。
駆けこんで受話器をとると、まさに切ろうとしていた相手と繋がった。
「慧さん、珍しいですね、こちらの番号に」
『だって加塚、携帯に出てくれねえし』
しょげた声に、まだ続いてるんだ、と眉根が寄るのを感じた。
このふたりは、ケンカをしている。
発端は、たぶん。
あの試写会。
部長と沙里さんが、ついに、キスを。
したように、見えた瞬間。
『兄ちゃん、俺やったよ!』
息を殺す私たちの元に、男の子が飛びこんできた。
もう悲鳴すら凍るほど蒼ざめた。
『なあ、別のやつ描いて』
『バッカ、お前、いいとこ見逃した…』
『葉さん、しーっ、しーっ!』