グリッタリング・グリーン
巨大な倉庫のような、屋内と屋外を一緒に使えるスタジオの、横手にわずかな芝生のスペースがある。
ベンチと灰皿が設置されたそこに、予想どおり葉さんはいた。
「ごめん」
私が何も言わないうちに彼が口を開いた。
快晴の下、まぶしそうに目をすがめている。
「監督が空港に到着されたそうです、そのままここに向かうから、猶予は1時間よ、とエマさんより」
「寛大じゃん」
珍しい、と噴き出した表情が、いつもとそう変わりないように見えて安心した。
隣をあけてくれたので腰を下ろすと、俺ねえ、と前置きもなく話しはじめる。
「高校の頃、親父の浮気現場に出くわしたのね」
え、と言うのが精一杯だった。
思春期にそれは、相当ショックなんじゃないだろうか。
「まあ浮気って言っても、女の人とくっついて歩いてただけなんだけど、わかるじゃん、そういう関係って」
「はい…」
「もっと前から、何かやってんなって確信はあったんだ。でもやっぱり目の前で見ると衝撃で」
青い空に、葉さんがため息みたいな煙を吐く。
散っていくのを目で追いながら、思い出しているのか、少し間を置いた。
「俺、その場で親父を問い詰めたのね、この女なんなのって、わかりきったこと訊いて」
そしたらさ、と煙草をもてあそびながら目を伏せた。
「女に言われたの、『これができちゃった子?』って」
叱られた子がその行為に至った経緯を、求められてぽつぽつと説明するみたいに。
わかってほしがっているような、言わせないでほしがっているような、そんな口調で。
「親父は、『そう』って、笑った」