グリッタリング・グリーン
煙草を挟んだ指が、何気なく額を掻いた。

その手に隠れた瞳がかすかに揺れてるのが見えた。



「たまんなかった、その女との間で、どんなふうに俺や母さんのこと話されてたのかとか想像して」

「葉さん…」

「俺、俺さえいなきゃとか考えるほど酔ってないし、もっとひどい家いくらだってあると思うし、あんな親父でも育ててくれた恩は感じてるけど」



投げ出した脚の間で、手を軽く組み合わせる。

言葉を探すように指が動いて、灰が芝生に落ちた。



「母さんだけは、解放してあげたいんだ」



沙里さんは葉さんを産んで育てるために、大学を中退せざるを得なかったらしい。

慧さんのマネージャーをするようになったのは、葉さんが高校を出て独立してからで、それまでは仕事もしていなかったんだそうだ。



「まだガキの俺をつれて、親父の都合であちこち移り住んで、やりたいことやる余裕なんて、全然なかったんだよ」



だいぶ短くなった煙草を、捨てようか迷っているようにじっと見る。

そう秘密主義な印象も受けない葉さんが、こんなに自分のことを語ってくれたのは、そういえば初めてだと気がついた。



「俺が産まれて、親父も成功すると、学生時代の友達はどんどん離れてって、でも加塚さんだけはね」



にこ、と微笑む。



「ずっとうちを気にしてくれて、親父の留守には勝手に後を託されて、それでもほんとに泊まりに来てくれたりして」

「完全にお父さん代わりですね」

「それこそ俺、宿題見てもらったのもキャッチボールしたのも、あの人なわけ」



楽しい思い出なんだろう、一息にそこまで喋ると、ふと恥ずかしくなったのか口をつぐみ、まあそういうこと、と急におざなりに話を結んで、うつむいてしまった。


照れくさそうな横顔を見ながら思った。

ねえ葉さん、葉さんのその思いを、きっと加塚部長も沙里さんも感じてます。


それからもしかしたら、慧さんも。



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