グリッタリング・グリーン
ぽかんと見守る私の前で、葉さんが今にも喉を鳴らしそうな雰囲気で部長の唇をふさぐ。

さっきよりずっと濃厚だけど、それでもいたずらだってことがわかる、甘えたキス。


力ずくで引っぺがされて、葉さんはくすくすと笑いながら舌を出した。

とろりとすわった目が、よろしくない感じに光る。



(これは…)



完璧に、酔ってる。



「部長、大丈夫ですか…」

「生方は来るな、危ないから。こいつこうなると、見境なしなんだ」

「まさか、いつもこうなんですか」

「相当飲まないと、ならないんだけど。今日は途中荒れたし、酒の回りが早かったのか」



もな、という言葉はまた、綺麗な形の唇にさらわれた。

思わずといった感じに部長が身体を引くと、葉さんはよけい満足したみたいで、笑う。



「葉、目覚ませ」

「母さんもらうって言って」

「言うか!」



可愛がっている相手だけに無下にできないのか、もしかして本気で“沙里さん”の面影がちらついているのか。

部長の抵抗も、毅然としているとは言いがたい。


もはや感心に近い気持ちで、目の前の光景を眺めた。

葉さん、酔うとこんなになっちゃうの。


ふと、周囲のテーブルからの視線に気づいて我に返った。

事情を知っていれば微笑ましいけど、とりあえず早くどうにかしないと、部長が気の毒だ。



「タクシーつかまえてきますね」

「悪い、あ、行きがけにこれ、渡しておいて」



首にまとわりつかれたまま、部長がおしゃれな長財布から慌ただしくクレジットカードを抜き出して私にほうった。

それを会計と一緒に店員さんにお願いし、お店の前でタクシーを拾って店内に駆け戻った時には。

葉さんは、心なしか憔悴して見える部長に抱きかかえられるようにして、深い眠りに落ちていた。



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