グリッタリング・グリーン
完全にへそを曲げてしまった様子に、さすがの部長もため息をつく。

確かにあのお父さんと葉さんが合うとはなかなか言いがたいかもしれない。



「母さんも、いい加減愛想尽かしてるよ」

「大人のことは、大人に任せなさい」

「俺、いつ加塚さんがあの男から母さん奪ってくれんのかなって、待ってるんだよ」



煙草を吸おうとしていた部長が、むせた。

葉さんは本気らしく、すねた目つきでにじり寄る。



「母さんだって、きっと待ってるよ」

「お前が口を挟むことじゃないよ」

「なんで? 俺、息子だよ、めちゃめちゃ当事者だろ」



じりじりと迫る葉さんを、あのなあ、と払いのけようとした部長が、ぎくっと固まった。

思った以上に近くにいたんだろう。

葉さんは部長の肩に頭をもたせるようにして、きつい視線で見上げていた。



「もう母さんに未練ないっていうなら、いい加減、他の人と結婚してみせてよ」

「子供が生意気言うな、うわ、お前そういう顔すると、ほんと沙里に似てるな…」



困り果てたような部長の声は、弱々しく消え入り。

次の瞬間、私は再び驚愕に目を見開くはめになった。


葉さんが、ふいに顎を上げて、部長の唇に軽いキスをしたのだ。


時が止まった気がした。

部長もたっぷり数秒間は、固まっていた。


葉さんは怒られなかったことに気をよくしたのか、にこっと満足げに微笑むと、部長の首に腕を回して再び顔を寄せる。

なかば呆然とその身体を押し戻しながら、部長がテーブルに目を走らせて、はっとした表情を見せた。



「葉、俺の酒、飲んだな!」

「だって俺のグラス、どれだかわかんなくて」

「バカ、トリプルだぞ、あれ、おい、やめろって」


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