グリッタリング・グリーン

「あー…、生方?」



なんだか煮え切らない感じに部長が呼んだ。



「はい」

「葉からなんだけど、今度の原稿の受け渡しの時、今後のスケジュールについて、相談したいことがあるんだって」

「あっ、お電話ですか、受けます」

「いや、それが」



とっさに電話機に手を伸ばしたけれど、どの回線も、通話中であることを示すランプが点灯していない。

見ると、部長が使っているのは自分の携帯だった。

笑いだしそうなのか、心配しているのか、微妙な表情で。



「生方にはとりつがなくていいってことなんだけど、何かあったの?」



顔が熱くなるのがわかった。

隣の未希さんも、明らかに笑いをこらえてる。

いい根性じゃないですか、葉さん…。



「かしこまりましたとお伝えください」

「了解」



手帳を開いて、今週末の原稿引きとりの日の欄に、スケジュールの件を書きこんだ。

その頃はもう、3月だ。


二週間前の欄にある、葉さんの名前をくさくさした気分で眺める。

チョコレートを渡そうとした日。

会えるかわからなかったので、名前のうしろに”?”と入れてある。


初めてクライアントさんに新しい絵を見てもらった日だったんです。

当然ながら一発OKは出なくて、ここをこう直して、なんて修正指示をもらったけれど、それすら嬉しくて。

そんな話も、したかったんです。


私がバカでしたか?

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