グリッタリング・グリーン


「今回の目玉は12,800円てとこなわけで。とにかくそれさえ伝わればいいから」

「承知しました、じゃあ価格を立たせて、あとは商品の写真ですね」

「そう、よろしく」



持っていったラフに赤で大きく修正を入れて、ファイルに挟む。

クライアントのオフィスでの打ち合わせを終えると、ちょうど昼時だったので、会社に戻る前に何か食べていくことにした。


私の勤める制作プロダクションは、印刷物を中心とした冊子やDM、新聞雑誌の広告原稿などの制作を手がけている。

たとえば家電メーカーの商品カタログなんかも企画から撮影、コピーライティングまで請け負うし。

出版社から受注して、書籍のデザインやちょっとした編集作業を行うこともある。


私はクリエイティブ要員としてでなく、制作進行として採用された。

最初から画像編集ソフトを使いこなせたことくらいが、美大を出たありがたみをかろうじて感じられる部分で。

それですら、会社に入ってから学んでも、はっきり言って全然遅くない。


全部で40人ほどの小さな会社なので、ひとりが手がける範囲は広い。

営業的なこともするし、私は一応美術を学んでいたこともあり、簡単なデザインくらいならやらせてもらえていた。


駅前のカフェに入り、ホットサンドとカフェラテを注文して、さっきのクライアントのオーダーを思い出して息をつく。

クリエイティブのクの字も感じない仕事。

こういう案件は、どこか悲しくなる。


必要だからつくるんだし、手を抜くつもりはないけれど。

せっかくつくるものなら、美しさとか楽しさとか、求めたっていいのに。


とりあえず価格は赤い文字で、ドカンと黒フチと影つきで、級数を上げに上げて。

カタログ写真を流用した商品画像を、お決まりのように真ん中に置いて。

それがいいんだ、余計なことはするなと言われてしまうと、やっぱりむなしくなる。


会社に戻ったら、葉さんのイラストデータを使って百科事典のラフを作ってしまおう。

少しそれで元気をつけてから、さっきのDMの修正にとりかかろう。


携帯から会社のメールをチェックして、返事のできそうなものだけ返信しながら、手早くお昼を済ませた。



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