王子様の献身と憂鬱

 やる気と潤いを取り戻した上に人手が増えた事もあって、そこから残った書類が片付くまではあっという間だった。
 仕事が終わるやいなや、お先に、とウインクを投げてそそくさと帰って行った友人を見送ってから彼女も帰り支度をする。


「急に誘って悪かったかな」


「いえ、特に予定なかったんで嬉しいです」


「なら良かった……あれ、何か甘い匂いする」


「あ、指先が乾いちゃったんで今ハンドクリーム塗りました」


 彼女の手には花や星の散ったピンクのチューブにキラキラと輝くゴールドの蓋がついた、華やかなパッケージ。中央には優美なestelleのロゴ。
 若い女性に大人気の化粧品メーカーが出している、見た目が可愛いので持っているだけでアガると評判のハンドクリーム。


「ごめんなさい、林檎の香り苦手ですか?お店に入るまでには飛ぶと思うんですけど」


「いや、女の子らしくて可愛いと思うよ。日下さん、いつも良い香りするなと思ってたけどこれだったんだな」

< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop