ほっといてください、王子。

***

「おい、安住!いつまで休んでるんだ!!」

チーフの声でいきなり妄想から現実に引き戻された。

「もう5分したら出るぞ。準備は出来てるんだろうな?!」

その言葉ですかさず仕事モードにスイッチが切り替わる。

「大丈夫ですよ。先に行って車温めておきます。…今日は寒いですからね。」


おう、頼むぞ。とチーフから社用車のキーを渡される。気が利くな、と誉められてちょっとだけ心が温かくなった。


その場を立ち去ろうとして…

何となく視線を感じて振り返った。


「ね、『つめたく』しておいてヨカッタでしょ?」


王子がニコニコしながらそう言った。


「そうね。帰ってきたらまた来るわ。今度は間違わないようにするね。…ありがとう。」


最後のありがとう、は消えそうなくらいの声量だったけど、彼には届いたらしい。


「そうやって素直になれば、みんなと仲良くできるよ。頑張れ。」


そう励まされたような…気がした。
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