指サックの王子様
こんなイケメンくん、今まで見たことがない。

他のフロアにいる別部署の人かな……。

それにしては、服装がシャツにジーンズというカジュアルなスタイルをしている。

怪訝に思っていると、彼は私の手の辺りを指差した。

「オレ、お前が使ってる指サック」

「はぁ⁉︎」

なに言ってるのよ、この人。

なんで、こんな怪しい人がビルに入り込んでるわけ?

これは、まともに会話をしてはいけない。

口もききたくないけど、部長に報告して警備の人に来てもらわなくちゃ。

彼を無視して給湯室から出ようとすると、大きな手で制されてしまった。

「ちょっと、どいてください」

「やだね。オレは、梓を救いにきた王子だから」

「ええっ⁉︎」

いよいよ、ヤバイ気がする。

自分を指サックと言ってみたり、王子と言ってみたり。

ドン引きしながら彼の手を押しのけようとすると、それまで指サックをしていたはずの指にそれがないことに気づいた。

「梓がオレを買ったのは、約一カ月半前。通勤途中にある小さな文房具屋。指サックを買うのに費やした時間は三十分。そのおかげで、こんなイケメンをゲットできたわけだけど」
< 2 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop