仮氏
彼はそれ以上は言わずににこっと笑った。
そして自然に私の手を取り指を絡めた。
ただそれだけのことなのにやけにドキドキして、指からそれが伝わってしまうんじゃないかと思った。

「何で仕事のことって分かったの?」

「莉音が元気ないときは、だいたい仕事でなんかあったときだから」

「え…」

「ちゃんと解ろうとしてるんだよ、これでも」

それが本心かどうかなんてわからない。
だけど嘘でもそう言ってくれることが嬉しかった。

「前はすげーヤケクソっぽかったけど今日はいきなりいなくなるとかナシね」

最初はそう言われて何のことだかわからなかったけど、よくよく考えるとあの日のことを思い出して恥ずかしくなった。
そう言えばあの時も、今日みたいなことがあったっけ。

「…成長してないな、私」

思わずポツリと呟いてしまった。

「それはないんじゃない?あんまり適当なこと言えないけどさ、そうやって考えたり自分を省みることができてるんだから成長してるんじゃない?」

普段はふざけたことしか言わないくせにやけに真面目なことを言うから何と答えていいのかわからなかった。
だけど彼からもらった言葉に、反省はもちろんしなければいけないけど今日の自分のことは許そうと思えた。
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