仮氏
「ごちそうさまでした」

申し訳なさそうに若宮くんは言った。

「別に構わないよ」

「いや、誘ったのは僕だし」

「気にしないで」

「次は僕が払います」

私は笑うだけで返事はしなかった。
次なんて私たちにあるのだろうか。

ここで、ハッとする。

彼とごはんに行ったあの日。
私は次は私が払うと言った。

その時の私は次があると思って疑わなかった。
その私と今の若宮くんが重なった。

私は次はあると思っていたけど、彼はどうだった?
今の私のような気持ちでいたかもしれない。


バカだなぁ、私


そう考えたら目頭が熱くなった。


「…松本先輩?」

若宮くんの呼びかけで我に帰る。

「気を付けて帰ってね!それじゃ、また明日」

そう言って私はさっさと若宮くんの前から姿を消した。
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