仮氏
「ん、こっち」

「え…」

「腕枕」

「そんなのいいよ…。腕痛くなっちゃうじゃん」

「痛くなるってわかってたらしねーよ!ほら」

と、彼は私を引き寄せて無理やり腕枕をしてくれた。

「なんかちょー汗かいた」

「ちょっと…それ今言う?」

「あはは!ごめんごめん」

彼は笑った。

「ねぇなんで莉音は背中向けてるわけ?」

「……恥ずかしいから!」

「もう全部見たししたし」

「うるさいなぁ…」

「いまさらじゃん」

「ほっといてよ」

「やだ。こっち向いて」

「いや」

そんな私を見て彼が体を起こした。

「莉音」

「なに?」

「優しくしなきゃって思ったけど、できなかった。…ごめんね」

そう言って彼は私の肩にキスをした。
突然そんなことを言うから、戸惑う。

彼女でもなんでもないのに、何でそんなこと言うの?
腕枕も、ただヤレる女に対してずいぶん優しいのね

そう思ったら、胸がちくっとした。
自分でそう思っておいて、なに傷ついてるんだろう。
エッチしたことには全然後悔していない。
どうせならいびきをかいて寝るぐらいしてくれればよかったのに。
きっとそんなふうに言ってくれるのは彼がもともと持ってる優しさ。
その優しさが今の私には痛かった。

「大丈夫だから謝らないで…」

私はそう言って体を彼の方に向きなおした。
そんな私を彼は優しく包む。
彼の腕の中で彼を見上げたら目が合った。

私は、痛い心に気付かないふりをして彼に口づけをした。
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