仮氏
もう、自分の気持ちに気付かないふりをすることができないとわかった。
この気持ちを認めてしまえばきっとこの先苦しいことの方が多いに決まっているのに。
一生懸命蓋をしてきたけど、もうそんなことできなかった。

もう誰かを好きになることなんてないって思ってた。
もう大切な人を手放すときの苦しい気持ちなんて味わいたくなかった。
もうあの日の私に戻りたくなかった。

それなのに、人はまた誰かを好きになるんだ。


案外自分の気持ちを認めると、気持ちがすっと楽になった。
だけどこの気持ちはずっと私だけが解っていればいい。
彼には絶対に伝えることはしない。
私はそう決めたのだった。


伝えたら、今の私たちの関係は終わりを迎えるだろう。
そして、この気持ちが絶対に実るものではないとはっきりわかる。
私はまだ、この曖昧な関係を終わらせたくなかった。
それぐらい彼といる時間は居心地がいいものに変わっていたのだった。
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