仮氏
その力が意外と強くてびっくりした。

「ねぇ、ちょっとどこ行くの?」

彼に引っ張られながら私は聞くのに、彼はずっと黙ったままだ。

連れてこられたのは、あの個室のあるカフェだった。

「コーヒーと、オレンジティー」

彼は店員にそう告げるとどさっとソファーに座った。
私も後から静かに座った。
どちらから話すわけでもなく、沈黙が続く。
程なくして彼が頼んだものが運ばれた。
私はポットをゆっくり押して茶葉を沈めた。

そんな私に不意打ちで彼はキスをしてきた。

「…なに?」

「別に、したかったからしただけ」

「あっそ…」

また私たちは黙った。
少し時間を置いてしまったオレンジティーは、ほろ苦い味がした。

そういえば、前も似たようなことがあったっけ。
どうやら彼は不機嫌になると黙るらしい。
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