仮氏
こういうとこ。
彼はわざとやってるのだろうか。

これが恋人同士だったらどんなに幸せな時間が流れてることか。
だけどそうではないのがわかっているから、胸の奥がチクチクする。
それに、なんだか分かる。
きっと私たちはこれから先もずっとこのまんまだろうなって。
だからこそ、余計にチクチクが増す。

私はそんな現実から目を背けるように彼の腕の中でぎゅっと丸まった。

「ん?どした?」

「どうもしないよ」

「莉音からくっついてくるの、珍しい」

「…いいじゃない、たまには」

「うん、俺的には大歓迎」

そんなことを彼が言うから、私は彼の腕をぎゅっとした。
せめてこの時間だけは、いろんなこと忘れたい。
偽物だってわかっているけど、今は夢の中にいさせてほしい。
悔しいくらい、彼の腕の中は居心地が良かった。
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