強引な誘惑【ぎじプリ】

「再来週の水曜日は、俺の為に空けておけよ?」

「……っ!」


甘く囁かれて、頬がカァッと熱くなった。
同時に、不覚にも彼の台詞にときめいてしまった自分に気付く。


直球なんてずるい……。


「誕生日、祝ってやるよ」


咄嗟に口を開いたけれど、続けて落とされた声音があまりにも優しくて、拒絶の言葉を飲み込んでしまった。


「嬉しいだろ?誕生日に俺と一日中ずっと一緒に過ごせるなんて」


にやり、意地悪な笑みを向けられる。

すぐに言い返したかったのに何も言えなかったのは、疲れているせいで頭が働かなかったから。

決して、ドキドキしてしまっているからではない。
間違っても、そんなことあるわけがない。


「そ、そんな勝手に決めないでよっ!私にだって予定が……」

「誕生日に俺と過ごすよりも大切な予定なんてあるわけないだろ」


きっぱりと言い切る自信は、一体どこから来るのだろう。
自意識過剰だと突っ撥ねてやりたいのに、余裕の笑みを見せる彼に翻弄されて、単純な胸がキュンキュンと震えている。


「じゃあな。誕生日、楽しみにしてろよ」


私から離れた彼は、ふっと瞳を緩めてから踵を返した。
その甘い笑顔に見惚れてしまっていた私は、慌てて頭をぶんぶんと振る。


「絶対、あなたと一緒に過ごしたりなんてしないんだから!」


去っていく背中を見つめながら咄嗟に告げると、彼がクッと笑って「素直じゃねぇな」と零したのがわかったけれど……。心のどこかでは彼の言うことが正しいのはわかっていて、悔しさを感じながらも後ろ姿を見つめることしかできなかった。




窓の向こうを見ると、夜空に蜂蜜色の満月がくっきりと浮かんでいた。
残業になったのは間違いなく不運だったけれど、都会でもこんなに綺麗な月が観られたのは少しだけラッキーだったのかもしれない。


……再来週の水曜日、晴れるかな?


これから一層寒くなりそうだけれど、今朝観た天気予報では確かずっと晴れマークになっていたはず。

それが続けばいいな、なんて思いながら、明日の朝一で有休の申請を出そうと決めた──。




END.



【ぎじプリ】
彼は、「有給休暇」。

(日曜日がアリなら、有休もアリでしょうか?)

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