七色の空
チャプター59
「翔べない翼」
捜索願いが出されてから10時間が経過した。警察もまだ福生を捜し出せずにいる。
林檎は朝早く目覚め、昨日の服に袖を通してアパートを出る。林檎がいま出来ることは、心当たりの場所に足を運ぶこと。頭で考えても何も解決しない状況に、じっとはしていられない林檎であった。
林檎は、福生に出会った橋の上から今日まで福生と訪れた場所を、過去に遡るようにしてたどって行く。思い出は走馬灯のように蘇る。
二人で歩いた道、車椅子をおして下った坂。二人で眺めた池、寄り添って座ったベンチ。二人で見上げた銭湯の煙突、煙草と缶ジュースでいりびたったコインランドリー。二人で餌をやった、紅い屋根の家屋に住みついた黒猫、いつもの電線に並んでとまるカラスの親子。
福生と見たものは、どれも華やかさに欠け、きっと多くの人が見過ごしてゆく些細な現実。思い返せば、年老いた老夫婦のような時間を過ごしてきた。刺激的なことといえば、欲しくなれば、どこでも構わず求め会ったセックスぐらいのものだ。
福生が過ごした時間は福生の撮りたい映画そのものである。林檎はその映画のヒロインだ。福生はヒロインが幸せになって終わる脚本を、これまで一度として描いたことはない。
キャミソールからのぞく林檎の肩には、福生が彫った翼の刺青。林檎は羽ばたいて、空の上から福生を探すことは出来ない。
このヒロインの結末を、福生はどんな風に描こうとしているのだろう…。
「翔べない翼」
捜索願いが出されてから10時間が経過した。警察もまだ福生を捜し出せずにいる。
林檎は朝早く目覚め、昨日の服に袖を通してアパートを出る。林檎がいま出来ることは、心当たりの場所に足を運ぶこと。頭で考えても何も解決しない状況に、じっとはしていられない林檎であった。
林檎は、福生に出会った橋の上から今日まで福生と訪れた場所を、過去に遡るようにしてたどって行く。思い出は走馬灯のように蘇る。
二人で歩いた道、車椅子をおして下った坂。二人で眺めた池、寄り添って座ったベンチ。二人で見上げた銭湯の煙突、煙草と缶ジュースでいりびたったコインランドリー。二人で餌をやった、紅い屋根の家屋に住みついた黒猫、いつもの電線に並んでとまるカラスの親子。
福生と見たものは、どれも華やかさに欠け、きっと多くの人が見過ごしてゆく些細な現実。思い返せば、年老いた老夫婦のような時間を過ごしてきた。刺激的なことといえば、欲しくなれば、どこでも構わず求め会ったセックスぐらいのものだ。
福生が過ごした時間は福生の撮りたい映画そのものである。林檎はその映画のヒロインだ。福生はヒロインが幸せになって終わる脚本を、これまで一度として描いたことはない。
キャミソールからのぞく林檎の肩には、福生が彫った翼の刺青。林檎は羽ばたいて、空の上から福生を探すことは出来ない。
このヒロインの結末を、福生はどんな風に描こうとしているのだろう…。