七色の空
チャプター68
「紅い靴の女の子」
あちこちで騒々しく いろんなコトはありのまま 遠くの方まで行けるような そして、僕も散りばめられた
福生が担ぎ込まれたのは、林檎の母の馴染みの町医者が一人でやっている診療所だ。たいそうな設備などありはしない。そこの医者は未だ独身で、仕事の合間に酒をいれる。人間として幾分問題はあったが近隣の住民からは信望を受けていた。腕は確かである。
担ぎ込まれた福生の頭部を麻酔無しで縫合すると、運ぶ間にかなりの量の出血をしていた為、輸血と点滴で応急処置とした。林檎から福生の容態を聞いた町医者は、直ぐに都心部の病院へ搬送の手配をする。
町医者「林檎ちゃん、まずは一旦安心だ、この後は総合病院で検査してもらった方が良い」
この町医者は過去に林檎の母親と交際していたことがあった。
町医者「それにしてもお母さんの若い頃にソックリだな(笑)」
町医者が最後に林檎を見たのは、もう大分昔まで遡る。
林檎は深々と先生にお辞儀すると、搬送される福生に付き添い、診療所をあとにする。
この町医者にも若い頃、ときめく夏が存在した。蛇口に口をつけて、水を飲む傍らに、林檎に似た、眩しい笑顔の女性が立っていたのを思い出す。お互い歳をとった。
あの頃の、それに代わる何かを手に入れて、今年の夏が過ぎていかねばならないと、少し感傷的になった心が、酒の入った引き出しに鍵をかけさせるのであった。
福生の血で真っ赤に染まった林檎は、名前通りの色となり、完熟した果実の如く、町医者の眼には焼き付いた。
林檎は、ここまで裸足で走って来ていた。浜辺で脱いだ靴を、履いているような余裕は林檎にはなかったからだ。先生は紅い靴を林檎に渡す。それは昔、林檎の母に渡し損ねた紅い靴。診療所の隅で、ずっと眠っていた思い出である。
思い出は手放してしまった方がいい。
紅い靴を履いた女の子は、童謡の女の子とは違い、己の希望の為、前に進んで行く。
「紅い靴の女の子」
あちこちで騒々しく いろんなコトはありのまま 遠くの方まで行けるような そして、僕も散りばめられた
福生が担ぎ込まれたのは、林檎の母の馴染みの町医者が一人でやっている診療所だ。たいそうな設備などありはしない。そこの医者は未だ独身で、仕事の合間に酒をいれる。人間として幾分問題はあったが近隣の住民からは信望を受けていた。腕は確かである。
担ぎ込まれた福生の頭部を麻酔無しで縫合すると、運ぶ間にかなりの量の出血をしていた為、輸血と点滴で応急処置とした。林檎から福生の容態を聞いた町医者は、直ぐに都心部の病院へ搬送の手配をする。
町医者「林檎ちゃん、まずは一旦安心だ、この後は総合病院で検査してもらった方が良い」
この町医者は過去に林檎の母親と交際していたことがあった。
町医者「それにしてもお母さんの若い頃にソックリだな(笑)」
町医者が最後に林檎を見たのは、もう大分昔まで遡る。
林檎は深々と先生にお辞儀すると、搬送される福生に付き添い、診療所をあとにする。
この町医者にも若い頃、ときめく夏が存在した。蛇口に口をつけて、水を飲む傍らに、林檎に似た、眩しい笑顔の女性が立っていたのを思い出す。お互い歳をとった。
あの頃の、それに代わる何かを手に入れて、今年の夏が過ぎていかねばならないと、少し感傷的になった心が、酒の入った引き出しに鍵をかけさせるのであった。
福生の血で真っ赤に染まった林檎は、名前通りの色となり、完熟した果実の如く、町医者の眼には焼き付いた。
林檎は、ここまで裸足で走って来ていた。浜辺で脱いだ靴を、履いているような余裕は林檎にはなかったからだ。先生は紅い靴を林檎に渡す。それは昔、林檎の母に渡し損ねた紅い靴。診療所の隅で、ずっと眠っていた思い出である。
思い出は手放してしまった方がいい。
紅い靴を履いた女の子は、童謡の女の子とは違い、己の希望の為、前に進んで行く。