七色の空
夜の病院。
福生の病室は静まりかえっている。その部屋のカーテンに仕切られた六つのベッドのなかで、1つだけ淡い明かりを帯たカーテンがある。その中ではプロジェクターが壁に映像を映し出し、福生はヘッドホンをはめて、うつろな表情で壁を見つめている。
その日を境に、林檎と福生が会えない日々が続く…


チャプター71
「ブレーンバスター」

きっと林檎が会えない間も、福生は病室で独り闘っている。林檎は福生の闘いを、福生のいないアパートの部屋で祈るしかなかった。所詮、林檎に出来ることなどないのだ。その現実に林檎はうちひしがれる。
福生がもし、生きることを諦めてしまったら…それが林檎の心配ごとだった。福生が死を平然と受け入れられる器の人間であることを、林檎は重々承知している。だからこそ、惨めったらしくても構わないから、最期ホンの少しでも長く生きることを福生に諦めて欲しくなかったのだ。
福生は事前に、主治医である淳に延命治療を行わないよう、要望を兼ねて、契約書兼同意書に自署名している。林檎が相続することになる賞金を少しでも多く残す為である。
林檎は愛ゆえ、福生に少しでも長く、この世に存在して欲しい。
福生は愛ゆえ、林檎に少しでも多く財産を残したい。
所詮この世は金である。愛だの夢だのは、今日を生き抜くのに、何の役にも立ちはしない。
けれど、その現実を一瞬でも心底否定できることがあったなら、兼ねてから積み重ねてきた、これまでのくだらない人生の背後をとり、ブレーンバスターをお見舞してやったことになるかも知れない。
愛とは残酷である。それは夢と類似している。目の前の愛が本物かどうか、自分自身を騙すことは出来ないからである。自分に正直になれないまま、受け入れて生きていくのが人間なのだろう。いや、むしろそれが人間なのかも知れない。
生きているだけでも意味のある、そんな儚い人間の尊厳の為にも、林檎は福生の明日を願っている。
 急に風向きが変わることもある、人間は自然の一部に他ならない、林檎の願いも自然の一部だ。
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