七色の空
チャプター75
「亀と砂」
夏の終りを告げる涼しい一日。気温は10月中旬並とNEWSが伝えている。
この日、福生の体調は久しぶりに優れている。いつもはあんなに重たい体なのに、今日は風が身体を包み込んで、病室の窓から外へ連れだしてくれそうだ。
あと、こんな幸福が何度あるのだろう。福生は今日に感謝して、大好きな女性と街に出る。主治医から半日だけ外出が許可された。 こんな時は、人のいない心休まる場所を選択するべきなのだろう。けれど、福生はそういう場所では寂しくなってしまうのだ。デタラメに賑やかな活気のある場所が望ましい。二人だけの時間を二人だけで過ごすのではなく、たくさんの人々の中で、二人だけの時間を過ごしたいと思うのだ。 自分の死を、特別な感情で受け止めるのはゴメンだ、死を平然と迎え、美味しい煙草をいつものように味わいたかった。福生は一生分の恋愛を林檎と出来たと自負している。根拠のない自信であったが、そもそも恋愛に根拠など存在しない。福生の考え方だ。
この頃ベッドの上で考えている事と云えば、もっぱら天国のことである。福生は、輪廻転生という思想が好きではない。この世に再び別のカタチで生まれ変わることが歓迎できたものではないからだ。
次は、天国という全く別の場所で新たな生活を送りたいと願っている。 天国では人間として生きるのか?福生にすれば、モノ思う生き物であれば、どんな生物でも構わなかった。しかし、そうなるとやはり人間になってしまう。
亀では言葉を綴れない。砂では夢を語れない。福生は今、人間に生まれてこれた歓びを受け止めているのだ。
「亀と砂」
夏の終りを告げる涼しい一日。気温は10月中旬並とNEWSが伝えている。
この日、福生の体調は久しぶりに優れている。いつもはあんなに重たい体なのに、今日は風が身体を包み込んで、病室の窓から外へ連れだしてくれそうだ。
あと、こんな幸福が何度あるのだろう。福生は今日に感謝して、大好きな女性と街に出る。主治医から半日だけ外出が許可された。 こんな時は、人のいない心休まる場所を選択するべきなのだろう。けれど、福生はそういう場所では寂しくなってしまうのだ。デタラメに賑やかな活気のある場所が望ましい。二人だけの時間を二人だけで過ごすのではなく、たくさんの人々の中で、二人だけの時間を過ごしたいと思うのだ。 自分の死を、特別な感情で受け止めるのはゴメンだ、死を平然と迎え、美味しい煙草をいつものように味わいたかった。福生は一生分の恋愛を林檎と出来たと自負している。根拠のない自信であったが、そもそも恋愛に根拠など存在しない。福生の考え方だ。
この頃ベッドの上で考えている事と云えば、もっぱら天国のことである。福生は、輪廻転生という思想が好きではない。この世に再び別のカタチで生まれ変わることが歓迎できたものではないからだ。
次は、天国という全く別の場所で新たな生活を送りたいと願っている。 天国では人間として生きるのか?福生にすれば、モノ思う生き物であれば、どんな生物でも構わなかった。しかし、そうなるとやはり人間になってしまう。
亀では言葉を綴れない。砂では夢を語れない。福生は今、人間に生まれてこれた歓びを受け止めているのだ。