悲恋哀歌-熱恋-
一章:御茶ノ葉
朝。
朝は、私にとってとても憂鬱な時間であり、そして同時に、とても愛おしいものでもある。
寝室の窓から差し込む光に目を擦り、隣で眠る彼女を見つめる。
昨日は、遅くまで呑んでいたからな...。
久しぶりに、悪酔いさせてしまったかも。
「ほんと、可愛い寝顔...」
隣で寝息をたてる彼女。
辻。
私の愛する人で、私の恋人。
普段は、ギャーギャー騒がしくて、破天荒で、無鉄砲なのに、眠っている時は、まるでお姫様のようで、なんて、そんなこと口にはできないけれどね。
このまま寝かしといてあげたいけれど、そろそろ依頼主が来る時間。
もし、こんなところを見られでもしたら大変。
名残惜しそうに、彼女の頬に口づけを落とし、息を一つ吐く。
「辻、朝だよ。そろそろ起きなさい」
布団を捲り、耳元で囁く。
辻は、一度眠ると起こすのが大変なのだけれど、無理矢理起こすのは好きじゃない。
それに、辻は私が起こすとすぐに目を覚ますのよ。
「....ん、凪....?」
ほらね?
ほんとに、呑み過ぎは良くないわよ。
体にも悪いし、気をつけないとね。
「ん...。悪い、な...。てか、凪も結構飲んでたろ...?大丈夫か...?」

目を擦りながら体を起こし、まだ目は覚めきってないようで、空ろな瞳で見つめられる。
「私がお酒に強いの、知ってるでしょ?」
「それにしたって、昨日は瓶八本開けただろ...。私は完璧に酔い潰れちまったぜ...」
瓶八本なんて、まだまだ軽いわよ。
十本でも二十本でもいけるわ。
「ははっ...、私にはついていけないな」
苦笑いを浮かべ、布団から立ち上がった彼女、辻は寝間着を脱ぎ始める。
私は既に着替えており、もうすぐ来るであろう依頼人に持て成す茶や菓子などを用意しようか。
「辻、最近家に帰ってないわね。そろそろ帰らないと、役人に目をつけられるわよ」
「それ、お前が言うかー?私が帰ろうとすると、お前が止めっから帰れねーんだろーが!」
それもそうだったわね。
だって、ずっと一緒にいたいもの。
体を触れさせることの出来る時間は夜だけなのよ?
「それとも、一緒にいたいのは私だけかしら」
その言葉に、着替えを済まし終えた彼女は顔を赤く染め、黙ってしまう。
そういうところも、好きよ。
「う、うっさいな...、これで役人にこのことがバレたら、ただ事じゃ済まなくなるぞ...」
そうね、と軽く返す辺り、心配などはしていない。

私達が暮らす妖華村には、女性同士の恋愛禁止という規則があり、なんでも大昔
互いの家系の違いで引き裂かれそうになった女性同士の恋人達が、この村にある大きな池で心中を測ったのだとか。
それから、村で女性同士が恋に落ちると、村に祟が起こるようになったのだ。
だから、今の村長は、そのホントかどうかもわからない昔話に添えて、村での女性同士の恋愛を固く禁じ、もし破ったものは、祟を収めるための生贄として池に沈める、なんて、物騒な規則を作ったのだ。
今まで、規則を破り、池に沈められた女性の数は私の知るところ六人。
誰もが私と辻の親友であり、同じ仕事をしていた仲間だった。
そして、その六人は皆、外での逢い引きを誰かに見られ、そして、それが村長の耳に入ったのだ。
だけど、私達は外で逢い引きなどしないし、それに、誰かに見られるなんて失態は侵さない。
辻を失うことは、私にとって生きる意味を失うようなものなのよ。
「それは流石に、言い過ぎだと思うけどなー」
「あら、貴方はそう思ってくれてないのかしら?」
「ばか...、一々聞くなよ!」
ふふっ、そういうところ、ほんとに可愛い。
好きよ?
大好き。
「うぅ...、お前は私を照れさせる天才か!?」
「そうかもね?」
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