幼馴染みの期限

***


初めて触れたはずのその唇は、なぜかとても懐かしい感触がした。


10年前、病室で聞こえた広海の声。


『もう守り方を間違えないから』


そして、唇に感じた柔らかな温もり。


『もう離れない……俺は、樹里の側にいたい』


『樹理……好きだ』



握られた手の温かさも、優しい声も、キスの感触も、全部覚えてる。



……ずっと、ずっと、広海は私を想い続けてくれていたんだ。



10年分の広海の想いが胸の奥深くにストンと落ちて、甘い感情に変わって心の隅々までゆっくりと広がっていく。



その柔らかな熱を感じたのは、10年という長い歳月からしたらほんの一瞬の出来事だったけれど、心が溺れるには十分な時間だった。


私は瞬きをする事もできずに、ただひたすら唇から伝わる甘い熱に溶かされた。


「……ふぇっ」


暫くして、解放された唇から思わず間の抜けた声が出る。



「何だよ『ふぇ』って、色気ねぇな」



そう言って、広海はフッと唇の端を上げて笑った。




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