閉じたまぶたの裏側で
11時を回った頃。

脱ぎ捨てられたジャケットのポケットの中で、勲のスマホがその身を震わせ低い音をたてた。

いつもはマナーモードになんてしてないのに。

よほど邪魔をされるのがいやだったのか、それともこの間の私の冷たい態度がこたえたのか。

あなたの腕の中で、このまま気付かないふりをしていればいいの?

それとも、電話が鳴っていると指摘して、もう帰ってと私が言うのを待ってるの?


“帰るよ”とは言い出しにくいのか、二人で過ごす時間を打ち切るのは、いつも私。

あなたを奥さんの元に帰す、惨めな役目。

もし私が“帰らないで”と言えば、あなたはここにいてくれる?

“私だけの勲でいて”

何度も飲み込んだその言葉を、勲の腕の中で声には出さずに呟くと、また目元がじわりと潤んで、その滴が勲の肌を濡らした。

「……また泣いてるの?」

「泣いてないよ…。」

「…うん…。」

私を泣かせている自覚はあるんだろう。

後ろめたさからなのか、勲は私の下手な嘘に気付かないふりをした。

ホントにずるい男だ。


スマホはさっきから、途切れてはまた震えて、何度も着信を知らせている。

「電話、鳴ってる。」

「いい。」

電話に出ようとしない勲の代わりに、私はジャケットのポケットからスマホを取り出して彼の目の前に突き付けた。

「……鳴ってる。」

勲は私の行動に驚いたのか大きく目を見開いてから、ゆっくりとそれを受け取り、私には顔を見せないように背を向けて電話に出た。



そう、これが現実。

夢なんか見ちゃいけない。






< 31 / 107 >

この作品をシェア

pagetop