閉じたまぶたの裏側で
温かい手とまっすぐな想い



翌朝。


夕べ、あのまま泣きながら眠ってしまった。

腫れたまぶたを指先で押さえながらバスルームへ向かう。

熱いシャワーを浴びて、涙の跡を洗い流した。

シャワーを済ませてリビングに戻り、カーテンを勢いよく開ける。

どんよりと重い私の心とはうらはらに、窓の外は泣きたくなるほど青い空が広がっていた。

キッチンでコーヒーを淹れながら、そういえば今日は應汰とデートの約束をしていたんだと思い出す。

ハッキリ言って、そんな気分じゃない。

このまま一歩も部屋から出たくないのに。

そんな気持ちを見透かすように、スマホが應汰からの着信を知らせた。

「もしもし…。」

「おぅ、芙佳。」

なんの悩みもないような明るい声で、應汰は私の名前を呼ぶ。

「おはよう。朝から元気だね。」

「ん?そりゃ今日は芙佳とデートだからな。」

「テンション高過ぎ…。」

本当は断ろうかと思ってたのに、なんとなく断りづらい。

「今日は電車と車、どっちがいい?」

勲は七海と結婚してから、車に乗せてくれなくなった。

七海に私を乗せた形跡を見つけられては困るからなのだろう。

「車、かな。」

元気に歩き回るような余裕もない。

適当にドライブでもして過ごせばいいや。

「行きたいとこあるか?」

「特にないけど…。海でも見に行こう。」

「よし、わかった。スカート履いて来いよ。」

「なんで?」

「車の中で盛り上がるかも知れないから。」

「……そんな事したらもう絶交だからね。」

「絶交って…小学生か。」


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