閉じたまぶたの裏側で
私たち以外にも同じ階から数人が乗り込んだ事で、エレベーターの中はかなり混んでいる。

勲との距離が近い。

なんだか居心地が悪くて、早く1階に着けばいいのにと思いながらフロアの数字にランプが灯るのを見上げていると、勲が私の手をギュッと握った。

驚いて手を引っ込めようとしても、勲は更に強く私の手を握る。

こんなところで一体何を考えてるの…?!

もし他の人に見られたら…!

應汰は勲とは反対側の私の隣に立っていて、全然気付いていないようだ。

うろたえてじたばたすると余計に変に思われてしまうと思い、私はただ黙ってその手が離れるのを待つ。

エレベーターが1階に着くまで、誰にも見つかりませんようにと気が気でない。

ようやくエレベーターが1階に着くと、ドアが開く直前にやっと勲が私の手を離した。

誰にもバレないで良かった。

変な汗かいてる。

「河合、降りないのか?」

ホッとしたのもつかの間、少し足がすくんで動けずにいた私に、勲が声をかけた。

「あ…降ります…。」

私は先にエレベーターから降りていた應汰に慌てて駆け寄った。

「どうかしたのか?」

「いや…なんにもないよ。ちょっとぼんやりしてた。」

「そうか?今日は何食う?」


應汰と親しげに話している私を、勲が険しい顔で見ている。


お願い。


もう私に関わらないで。


やっと少しずつ前に進めそうな気がしていたのに、その手で私を引き留めないで。








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