閉じたまぶたの裏側で
それからしばらく應汰に手を引かれて歩いた。

應汰の手のぬくもりが心地よくて、このまま離さないで欲しいと思ってしまう。

前を向いて歩く應汰の背中を見ながら、私の中で迷いが生じる。


明日には私はもうここにはいないのに、またこんな中途半端な気持ちで、應汰に抱かれるの?

会社を辞めて両親のペンションを手伝う事も、勲も應汰も居ない場所で新しい生活を始める事も、一人になって自分を見つめ直す事も、みんな私が決めたのに。

当たり前のように應汰の優しさに甘えてばかりいたら、私はどんどんダメになって、また同じことをくりかえしてしまうんじゃないか。

一緒にいたいけど…このまま一緒にいたら、離れられなくなりそう。


「待って、應汰…。」

立ち止まった私を振り返って、應汰は私の唇に軽くキスをした。

「俺は芙佳が好きだ。何があってももう絶対に逃げない。だから…。」

「ごめん、應汰。」

應汰はグッと奥歯を噛みしめた。

「……俺の事、嫌いか?」

「嫌いなわけないよ…。」

「だったら俺と…。」

應汰の言葉を遮って、首を横に振った。

「應汰の事、大事だから…もう中途半端な事はしたくないの。」

「芙佳…。」


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