閉じたまぶたの裏側で
朝、いつものようにアパートを出て自転車でペンションに向かった。

今日は宿泊予約が二組入っている。

まずは宿泊客の朝食の配膳、それから後片付けを済ませ、10時になると宿泊客を送り出し、使用済みの客室を掃除して新しい客を迎えられるようセッティングをする。

それから風呂場やロビー、食堂などの掃除をして、合間にホームページのチェックをする。

両親は主に食材の仕入れや食事の用意などをしている。

母は父といられるのがよほど嬉しいのか、こちらに来る前の実家にいた時より明るくなった。

会社に勤めていた頃の父はいつも忙しくて、なかなか一緒に食事をしたりゆっくり話したりはできなかったから、ここに来てその頃の時間を取り戻しているのかも知れない。


私も会社にいた頃より明るくなった気がする。

ちょっとした事でクヨクヨしなくなった。

ペンションの仕事は体力はいるけれど、ここはとてものどかで、時間の流れが穏やかだ。

傷付いた心を癒すためにここに来た事は両親には言っていないけれど、来て良かったと思う。

あのまま会社を辞めずにあそこにいたら、私はどうなっていただろう?

勲への想いを捨てられないままで應汰に甘えていたら、また應汰の腕の中で勲を想って、應汰を傷付けていたかも知れない。

そんなの、かつての私と勲の不毛な関係と同じで、いつまでも続けられるわけがない。

應汰の気持ちは嬉しかった。

だからこそいい加減な事をして嫌われたくなかった。


海を見るたびに應汰を思い出す。

いつの間にか、勲の事より應汰の事を考える方が多くなった。



應汰、どうしてるかな。







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