おいしい時間 しあわせのカタチ


「おや、佐希ちゃん。めずらしく眠たげだね」


 その晩、枡屋を訪れたスーパー小畑の社長にあくびを噛み殺していたところを見つかってしまった佐希子は、ちろりと舌先をのぞかせて、


「わかります?」


 社長ご所望の独活とニシンを甘辛く炊いたものを前に置いた。


「今日はいつにも増して顔つきにしまりがないからねぇ」

「慣れない早起きは大変です」

「なにかしてるんですか?」


 と会話に混ざってきたのは、先月はじめて来店し、以来枡屋の常連の一人になった根岸くんの同級生の大上さん。

 週に一度はうちに顔を出し、旬の食材を使った料理を味わいに来る、なかなか渋い趣味の青年だ。


「寮のばあさんが一時寮を空ける間、嶋工の寮生に、三食分の飯を作ってやってんだと」


 またぞろあくびをしそうになっている佐希子に代わってゴンさんが説明する。

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