おいしい時間 しあわせのカタチ


「どうしました?」

「いや実は昨日なんだけどさ、その、店になんか、忘れ物はなかったかい?」

「忘れ物ですか?」


 忘れ物といえば佳織が置いていっただろうハンカチだけだが、まさか社長のものとは思いがたい。

 しかしそれがわたしの勝手な思い込みならばと、


「――どんなものですか?」


 社長はあたりをきょろきょろと見回すと、両手で十センチ弱四方の四角を作って見せて、


「畳むと、これくらいのハンカチなんだ。黄緑色で、下の方に丸っこいひよこが刺繍してあるやつでよ」


 うわやっぱり、と思ったが、そんなことはおくびにも出さず、


「ああ、それなら昨日――」

「見たのかい!?」


 食い気味に問われて、佐希子は小刻みに何度も頷いた。


「あ、あるお客さんが、水道に置いてあったからってわざわざ。てっきり別の方のものだと思ってましたけどあれ、社長のだったんですね。安心してください。ちゃんと店のほうで保管してありますから」


 微笑むと、社長は見るからにほっとした様子で胸を押さえ、


「そうかい、ああよかった、ほんと。ありがとよ佐希ちゃん」

「いえいえ、わたしはなにも」

「今晩取りに行くよ、……若いの連れて」


 後の科白に佐希子は笑みを深くして、ありがとうございます、と恭しく首を傾げて見せた。


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