おいしい時間 しあわせのカタチ
「不躾で申し訳ないんですけど、佐希子さんて、ご結婚は?」
「いいえ。寂しい独り身です」
「えっ、そうなんですか? 一度も?」
「一度も。既婚者だと思ってました?」
「はい。え、だって、一戸建てに住んでるし、あんまり歳も違わなそうなのにすごく落ち着いてるし」
すると、佐希子さんがなにかを言う前に隣のゴンさんが噴出して、
「落ち着いてんだかぼーっとしてんだか」
たしかにな、そんなとこもある、と赤ら顔の初老のお客たちが口々に相づちを打つ。
いずれも先代からの常連で、そもそも態度が大きいが、それこそ佐希子相手にはまるで遠慮というものを知らない。
「もう、おふたりとも。そんなこと言うと、この前のあれ、おふたりの奥さまにぜーんぶばらしちゃいますからね」
冗談混じりに軽く脅せば、それだけは勘弁、とでも言うように、男ふたりも大仰に首をすくめて見せた。
「家は亡くなった祖母から引き継いだものなの。落ち着いてるように見えるのは、そうねぇ――でもやっぱりすこし抜けてるところがあるからなのかも知れませんね」
佐希子は言って、自分でもくすりと笑った。
笑みを向けられて、男ふたりもへらりと調子を持ち直すも、さすがにもう便乗はしない。