おいしい時間 しあわせのカタチ
「そうかなぁ、そうは見えませんけど」
「そう? ならそう思っておいて。わたしもそんな感じだと思うことにするわ」
と、ない眼鏡がある風に佐希子は目じりのすこし上辺りで、顔に水平に立てた手を小さく上下させる。
聞くとはなしに話を聞いて、見るとはなしに佐希子を見ていたカウンター席の面々が揃って失笑した。
「何言ってもやってることが伴わないんじゃ一緒ですよ」
「どういう意味よ根岸くん」
「履いてるサンダルまぁたまちがえてます。それ、俺んですよ。しかも片方だけ。ほら」
「え!」
今日一番、笑い声が弾ける店内に、肌を刺すような冷気が流れ込んだのはそんなときだ。
「おいおい、今日はえらく賑やかだな」
「あ、社長いらっしゃい。待ってました」
話題の中心から逃れるように佐希子はとりわけ大きい声を張り、わざわざカウンターを出て社長を迎えた。