おいしい時間 しあわせのカタチ


「佐野はなにで帰んの? なんなら一緒にタクシー乗り合わせて帰らないか」


 襟元をからげた松井さんがほんのりあまい声をかける。


「そうだなぁ、それもありだよな、大通りはすぐそこだし。小谷さんはどうする」

「ああ、わたしはいいよ。近道があるし、多分みんなと方向もちがうもの。まだちょっと人通りもあるから」

「そっか。――あのさ」

「うん? ……あ、ちょっとごめん」


 不意に遮った佳織さんの手の中が光っている。スマートフォンだ、着信らしい。

 佐野くんを遠ざけるように暗がりに消えていくところから察するに、もしかして――。


「……元彼、だと思います?」

「え?」


 独り言にしては妙な、佐野くんの覇気のない声に顔を向ける。

 そして、ああ、と気づく。

 悔しげながらも、それを凌駕して慕情の溢れる眼差しが佐希子と佳織さんを行き来していた。
 

 この人は……。

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