おいしい時間 しあわせのカタチ

「――どうでしょう」

「聞いてませんか?」

「昨日知り合ったばかりですもの」 

「そうですか」

「気になるんですか?」


 佐野くんは眉を下げて力なく笑いながら、


「……はい。でも彼女にはどうしても捨てられない人がいるんです」

「どうしても?」


 何気なくそう繰り返すと、佐野くんはいささか卑屈そうに整った顔を俯けた。


「寒くなってきましたねぇ」

「……ええ、ほんとに」

「佐野ー、行くぞー」

「おー。――あ、じゃあ俺もこれで。失礼します」


 言葉は佐希子に向けながら、目線と意識はそのほとんどを依然として電話に忙しい佳織のほうへ注いでいる。

 その様子を不憫に思いつつも、部外者が口出しすることではないと、佐希子は自身の影を見つめながら未練そうに帰っていく佐野くんを見送った。

 そのうち、あたかも闇に消えるがごとく佳織さんがいなくなっていることに気づいたのは、すべてのお客を送り出したあとだった。

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