おいしい時間 しあわせのカタチ
「相談事でもされたか?」
カウンターで、並んで食器の水気を拭き取りながら、ゴンさんがめずらしく仕事とは関係のない話を振ってきた。
「相談事? わたしに?」
「あの若造と、佳織とかって嬢ちゃんのことだ」
「――ああ。別に相談なんて大それたものでもないですよ」
「結婚を意識する間柄なんだろ?」
見てるわねぇ、と佐希子は先代が店を仕切っている頃からの職人であるゴンさんの洞察力に舌を巻く。
「――さぁ?」
しかし、易々と話せることではない、と暗に濁せば、ゴンさんも察してそれ以上の詮索は控える。
ほうとか、ふんとか、相づちにならない声を出し、ゴンさんは拭いたばかりのグラスに自分用のお酒を注いだ。
ゴンさんの分の食器を引き取って拭きながら、ありがとう、と佐希子は声には出さずに礼を言う。
ゴンさんは心配してくれているのだ。
わたしが、わたしの手に余る悩み事をお客に持ちかけられて困っているのではないかと。
「ああ、やっぱり酒は冷に限る。冬でもな」
「それは人それぞれでしょう」
「まぁ、そりゃそうだが」