おいしい時間 しあわせのカタチ
そう言いながらまた一口、喉を鳴らしてお酒を流し込むゴンさんの横顔を見ながら、佐希子は自身の言葉を反芻した。
人それぞれ。
佳織さんは今、自身のこれからを決めるための、だいじな岐路に立っている。
わたしへの質問からも窺える、結婚の二文字がその証拠だ。
「――女性にとっては、難しい選択だと思うんです」
「はあ?」
酒のことか? とでも言うように、ゴンさんは難しい顔で佐希子と手元のグラスとを見比べる。
「情熱を取るか、それとも家庭を取るか。言ってもわたしには後者に関してはなにも思い及ぶものはないですけど、普通一般には天秤にかけてもなかなか答えの出ないものでしょう?」
「佐希子」
なにかを危惧するような、あるいは叱責するような強い視線を感じて、佐希子は自らの問いかけを打ち消すように首を横に振った。
「――って、ゴンさんに聞いてもわかんないですよね」
「む……そうさなぁ」
ゴンさんはアゴに触れる。
「でもまぁ、それこそ人それぞれなんじゃねぇのか? ――って、逃げちまうのは酷か。出産が頭にあったらなおさらだしな」
自分からハードルを上げるゴンさんを横目に、佐希子も自分用のグラスを出して、
「わたしも一杯もらおうっと」
とゴンさんのボトルからとくとくと澄み切った日本酒を注ぐ。