おいしい時間 しあわせのカタチ
眠りに落ちる寸前、佐希子はおぼろげな意識の片隅で、昔、母が作っていたオニオングラタンスープの匂いを思い出していた。
今日は店の調理の一切をゴンさんたちに任せることにして、佐希子は昨夜の長居を詫びるついでに社長が持ってきた渋柿を干し柿にするべく、朝からもくもくと作業をこなしていた。
社長の家の柿の木が今年は思いがけず豊作だったという。しかも大ぶりで色つやもよかったので、半分は渋を抜いて生でいただくことにして、残りを干し柿にすることにした。
くらくらするくらいの焼酎につけて密封したものを適当な場所に保管して、残り半分を縁側の日の当たるところに広げると、ひとり、せっせと皮を剥く。
渋柿を剥いているとすぐにも手がぬるぬるになって滑りやすくなるから注意が必要だ。
南側のベランダに、完成した渋柿の連なりを等間隔に干しながら、ふと佐希子は気づく。
明日からどこに自分の分の洗濯物を干そうかしらん。
そんな益体もない悩みに首を傾げていると、眼下に、一見部屋着と見紛うようなラフな格好で路地を行く女の人を発見する。
(佳織さん?)