おいしい時間 しあわせのカタチ
佳織さんが、淡白、と形容していた意味がわかった。
普通はもっと、だよな、という理解とか、でなければ、俺のためだと思って付き合えよ、という非難とかそういった、もうすこし互いに踏み込んだやり取りがつづくのではないのだろうか。
「……昔は、こういうのもよく見えてたはずなのになぁ」
「はあ」
自嘲気味に笑う佳織さんはふと遠くを見るような目をして、
「……うちは、いわゆる亭主関白の家庭で、あらゆるものの基準はすべて父にありました。気に入らないところがあればすぐにも母を自分よりはるかに劣るものみたいに高圧的な言動で貶して、追い詰めて、でも本人にその自覚はまったくなくて。しかもそれをわざわざ家族が集まる食卓でするんです。だからとくに胸が悪くなって、せっかくのご飯がものすごく味気ないものに変わることもしょっちゅうでした」
だから、そういうことの一切ない彼は、母を標的としたやり取りを通じて長年、重圧的な生活に甘んじてきたわたしにとって、かなりの異端者でありながら同時に救いでもあった。
磊落、という言葉が相応しい彼はわたしの好悪も無知もすべて飲み込んで、乱れることなく、いつもおなじ温度で接してくれた。
だがそれも、物理的な距離とともに、不思議と色褪せてきてしまった。
――彼氏の、持って生まれた関心の乏しさが仇になったのだ。