おいしい時間 しあわせのカタチ
「……なにもかも口出しされて萎縮するのは嫌なんです。でも、ぜんぶがぜんぶ「なんでもいいよ」みたいに通じちゃうのはいいようで虚しかったり、逆に的外れな苛立ちを覚えてしまったりして……。それにぜんぜん連絡がないのは、やっぱり、寂しいです」
佐希子さん、と佳織さんは廊下に手をついたままどこか怯えるような目で見上げてきた。
「わたし、やっぱり身勝手ですか……?」
佐希子は湯飲み茶碗を持つようにコーヒーカップを支え、一口、二口、と口の中を行き来させながら思案する。
「――そう感じれば、そうかもしれません」
佳織さんは傷ついたように顔色を失くして黙り込んだ。
「でも、正論じゃないですか、それ」
そう言って、残りのエクレアを口に押し込んだ。
口の端についたチョコレートもそのままに咀嚼して、鼻から深く息を吐き出す。
さっぱりとした生クリームがとてもおいしい。生地もしっとりしていて絶妙な歯ごたえだ。
「わたしは、ぜんぜん恋愛の達人ではないですけど、でも、佳織さんから話を聞いてひとつだけ、経験から導いたものがあるんです」
「なんですか?」
食いつくように佳織は近づいてきた。
佐希子は猫の額ほどの庭を眺めながら、眼裏に浮かぶ黄昏の母を思った。