おいしい時間 しあわせのカタチ
――思い出してしまった。
かの日の母を。父が好きだったオニオングラタンスープを作る姿を。
……正直、今でも信じきれてはいない。
だが母は、すくなくともその信念の下に恋をして、想いを貫いた。
それだって本物だと思わなくては、今、自分がこの世に生を受けている事実まで否定してしまうことになる。
佳織さんの話を聞いて、佐希子自身、図らずも母に思いを巡らせるいい機会になった。
「コーヒー、あたためなおしましょう。わたしももう一杯いただきたいわ」
佐希子はふたつのマグカップを持って台所に向かった。