おいしい時間 しあわせのカタチ
「佐希子、なにやってんだ!」
「ゴンさん。だって……」
いい年をして口を尖らせいじける佐希子を見て、それまで一度として笑顔を見せることのなかったコーチがごくちいさく噴出した。
切れ長の一重のせいか、笑うといきなり優しい印象で、佐希子とゴンさんは意外な思いで互いの顔を見合わせた。
「じゃあ、俺もそれで。ご飯と味噌汁ももらえますか?」
「はい、もちろん。根岸くん――ああ社長、いらっしゃい」
「よお佐希ちゃん、大将、今日も寒いねぇ」
去年も着ていた着膨れ気味のジャンパー姿で小畑社長がやってきた。
今日は一人みたいだ。
コーチからひとつ空けて、流れるように席に着く。
「明日の朝はもっと冷え込むらしいですよ」
「らしいな。だからだろうな、うちも鍋に使う材料がよく売れて明日も――おっ、そんなこと言ってたらここも鍋かい。いいねぇ、じゃあ俺も今日はそいつで一杯やろうか。佐希ちゃんもどうだい」
「まあ。一杯おごってくださるんですか?」
「ああもちろん。佐希ちゃんの好きな酒を何でも持って来ーい」